Sunday, March 12, 2006

ポスト植民地主義の立場について Postcolonial Studies

マーティン・バナール著、「黒いアテナ」、藤原書店。

ギリシア文明のルーツは本来アフリカとアジアであったにもかかわらず、「ヨーロッパ」にあると捏造したのは18世紀以降の西欧である、とする刺激的なこの本が刊行から十数年たつにもかかわらず、欧米の大学でいまなお大きな話題の対象となっている。

「あきらかな誤認があるものの、ポスト植民地主義の立場と、『過去の歴史あるいは文化遺産はだれに所属するのか』という文化相対主義の議論とが同調しているだけでなく、ヨーロッパに根付いている人種差別への思いを利用して、著者が科学的な反論を封じるレトリックを全体に張り巡らせている。したがって、『弱者の声であれば根拠薄弱でも容認すべきなのか』という専門研究者からの反論に対しては『やはり弱者いじめではないか』と再反論が可能になっている。とまどいを感じたのはこの巧みなワナであるが、歴史学・考古学のエリート主義への警鐘として本書を真摯に受けとめたいと思う」

青柳 正規(国立西洋美術館館長)の批評、読売新聞2006年2月12日。

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