Sunday, September 27, 2009

啓蒙と霊性

深澤英隆

啓蒙と霊性
―― 近代宗教言説の生成と変容 ――

■体裁=A5判・上製・456頁
■定価 7,980円(本体 7,600円 + 税5%)
■2006年5月25日
■ISBN4-00-022753-X C3014



 「宗教」については,実におおくのことばが費やされています.しかしいくら宗教について語っても,どうも釈然としない,という感覚は誰にでもあると思います.宗教についてはとっくに分かっている,という感覚と,宗教はどうも分からない,という感覚とを私たちはあわせもっているのです.
 どうしてこのようになったかは,宗教という概念の歴史をたどると,明らかとなります.日本語の「宗教」は,欧語のreligionの訳語として生まれましたが,religionという一般概念がヨーロッパで生まれたのも近代になってから,キリスト教の自明な妥当性が崩壊し始めてからのことでした.キリスト教から離脱しようとする近代の社会と知のシステムは,同時に自らの同一性を確認するために,近代性の母胎にして,その他者でもあるところの宗教という概念を必要としたのです.こうして結論の出ないまま,宗教という概念をもちいた宗教言説が,近代以降今日に至るまで,休みなく生産されるようになっていったのです.『啓蒙と霊性』のひとつの主題は,こうした宗教の概念が近代においていかに生まれ,今日に至るまでいかなる言説において結実してきたかを検証することにあります.
 また,どこまでも未決定な概念であるこの宗教という概念には,近代性との軋轢のなかで,さまざまな待望や幻想が託されました.本書のもうひとつの主題は,こうした宗教の再構想としての「知識人宗教」と,それが引き起こした思想的争闘との跡づけです.
 近代は宗教批判と宗教の思想的再構想が拮抗した時代だと思われるのですが,この10年ほどの間に,いわゆる「ポスト世俗化」が喧伝されるなかで,宗教についての対極的な二つの立場が形成され,競合しています.本書ではこれを宗教のポリティックスとポエティックス と呼んだのですが,広く見れば,近代の宗教論は,宗教の政治性と詩性のいずれを重視するかのせめぎ合いであったと言えるかもしれません.しかし今日,宗教を考えるうえでは,この両者の視点を同時にもち合わせることがますます必要となってくるでしょう.これが本書の第3の,また本書全体を貫くモチーフであると言えるかもしれません.

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